« 3日後の龍馬像 | トップページ | 新聞の書評欄とテレビの書評番組 »

2010年11月17日 (水)

BR:「ロビンソン・クルーソー」

■ Book Review
タイトル:ロビンソン・クルーソー
著  者:ダニエル・デフォー 著、鈴木健三 訳

出版社:集英社(文庫)

元祖サバイバル小説にして孤独と困難に打ち勝つ人間の「自省録」。
不況の今こそ読むのに最適な時。

ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)

『君は生き延びることができるか?』・・・って、これは一番最初の機動戦士ガンダムの予告編の決め台詞でしたね。今回はアニメではなく、私も読書アドバイザーなので、本の方の紹介を・・・。

記事タイトルのBRはBook Reviewの頭文字です。小説・映画の「バトル・ロワイアル」 (BATTLE ROYALE) とか「ブルー・レイ・ディスク」(Blu-ray Disc)ではありません。が、そういえば「バトル・ロワイアル」原作者の高見広春さんは、私と同じ県人で、かつて私と同じ会社に在籍していました。会ったことはありませんが

最近は、古典作品が現代語訳に翻訳され直したり、表紙デザインを漫画家やイラストレーターが担当して、古典を若者や一般人にも親しみやすくする努力が出版社でもなされていて、良い傾向だと思います。

今回は知らない人はない古典「ロビンソン・クルーソー」です。
いわずとしれた、大航海時代に孤島に取り残された男の物語です。

だいたい、古典と言われているものは小学校あたりで読んだか読まされたかしているものですが、それは子供向けのダイジェスト版がほとんどです。

最初から児童文学だったものは別にして、今では学校で読む古典も、書かれた当時は、一般の大人向けだったわけで、この本も日本語訳の本編だけで440頁もあり、しかも最近の会話中心の(つまり余白の多い)小説と違って、びっしりと文字で埋まっているので、結構読むのは骨が折れます。

内容的にも、農場経営や商取引の話が結構出てくるので、子供には分かりづらいし退屈な部分でしょう。それに、恋愛の話も全然ありません。かわりに人食い人種の話がやたら出てきますが、現代でも、イギリス人が嫌いな外国人をけなす時や、古代人の生活について仮説をたてるときに「カンニバリズム(人食いの習慣)」を持ち出したがるのは、この小説の影響が大きいのでは、と思ったりします。

しかし、もちろん、冒険ものとしての面白さは秀逸

特に、人食い人種から助け出したフライデー青年や他の遭難者と出会う前の、前半部分、乗った船が難破して独りだけ孤島に流れ着き、自分の住居を建て、道具を作り、狩りをし、家畜を育て、麦をまき、パン焼きにも挑戦するなど、元祖サバイバル小説ともいえる内容は、クルーソーの落胆ぶりとは違って読む方はワクワクします。これこそ、この小説の醍醐味です。

ただ、もうひとつ別な読み方もできます。それは、要するに、孤独な人間の「自省録」としてです。なにしろ、クルーソーは、無線も人工衛星もない時代に、航路からも遠く離れた絶海の孤島に独りで取り残されたのだから、その孤独感や絶望感は半端ではありません。

しかしながら、それでもなお、同じ船で自分だけが助かったことや、当面は生きていくことができる状況を前向きにとらえ、やけにならずに生きる努力と工夫をはじめます。

「状況は悪い。ほとんど最悪だ。しかし、乗り越えられそうだ」という趣旨の自問自答が何回も出てきます。その表現はいかにも17世紀のイギリス人らしく、キリスト教のピューリタン的に神への感謝という形の言い方になっていますが、それを読者の方に置き換えると、今の身の上が不幸なようにも思えても、実はたいしたことはなく、乗り越える道は必ずあるという気分にしてくれます。ま、元気づけられるというか、元気をもらえることは間違いありません。

不況の今、困難な状況下にある人は多いことでしょう。そのうえ、独り暮らしでは気分も滅入るでしょうが、そういう方こそ、読むのをおすすめします。

「ロビンソン・クルーソー」の翻訳は非常にたくさん出ていますが、今回は巻末にデフォーについての解説も載っている集英社文庫版を紹介しました。

また、400頁以上も読んでられないという方や、あまりにキリスト教的自省を読むのは疲れるという方は、少年向けのダイジェスト版も決して悪くはないと思います。例えば、岩波少年文庫版には、昔の時代背景や帆船、貨幣や単位などについての解説もついているので、細かいところでつまづかずに済みます。

ロビンソン・クルーソー (岩波少年文庫)
ダニエル・デフォー著、ウォルター・パジェット絵
                4001145669

*こちらのロビンソン・クルーソーの表紙に使われているイラストを描いたウォルター・パジェットは、S・ホームズのイラストを掲載雑誌の「ストランド・マガジン」に描いていたシドニー・パジェットの弟です。

ちなみに、”BS11デジタル”で「クルーソー(Crusoe)」という海外ドラマを毎週火曜日に放送しています。原作とは全然違う内容ですが、冒険活劇としては面白いので興味のある方はどうぞ。

*以下にも参加しています。

人気ブログランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ

|

« 3日後の龍馬像 | トップページ | 新聞の書評欄とテレビの書評番組 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

・読書アドバイザー」カテゴリの記事

ブックレビュー」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: BR:「ロビンソン・クルーソー」:

« 3日後の龍馬像 | トップページ | 新聞の書評欄とテレビの書評番組 »