ジブリの映画「風立ちぬ」見て来ました。
東京・大森のキネカ大森 では水曜日は毎週ファン感謝デーで、1000円均一です。だからというわけではないが、宮崎駿監督のアニメ映画「風立ちぬ」見て来ました(ロビーに過去のジブリ作品のポスターがはってあって、「となりのトトロ」の“修正前”(?)の、メイちゃんが独りだけででトトロの横に立っているバージョンがありました)。
(映画自体の感想は下の方になります。それより前は、時代背景のお話が多いです)
切ないですねえ。
「風立ちぬ」も、同じスタジオジブリの「紅の豚」も、飛行機がテーマで、時代もほぼ同じ。1930年代の、第一次世界大戦と第二次世界大戦のいわゆる「戦間期」から第二次大戦の戦中戦後の時期に当たります。そういえば、「二十四の瞳」も同じ時代。
世界のどこに行っても苦しいことが多かった、世界大戦と常に隣合わせの頃、また、「結核」の特効薬「ストレプトマイシン」も、「ペニシリン」も一般には普及していない頃の話です。
年号風にいえば「激動の昭和」(の前半)といった感じ(最初は大正時代だけど)。「おしん」の前半生も重なります。
実在の堀越二郎氏と、本作の主人公とはいろいろ違うわけですが、あの時代に生きた一般の人々はみな苦労の多い人生だったでしょう。
当時は、1929年からの世界恐慌の影響で、日本や他の列強諸国でも、失業者は街に溢れ、社会の矛盾は拡大し、日本でもドイツでもイタリアでも、軍国主義やナチ、ファシストなど全体主義者と秘密警察がうろついていました。また、ロシアは当時、スターリンのソ連であって、ソ連共産党とKGBが恐怖で支配する状態。そういえば、スペインでもフランコが独裁政権を握るころでもあります(当時としてはいわゆる“新興国”が多いのが印象的)。
連中は、振っている旗の色が何であれ、支配欲ばかりが異常に過剰な人権蹂躙の全体主義者で、本質的には同じ。自由の敵。国家や民族の名を騙るならず者集団です。
大学の世界史の教授は「社会の病理現象」といってたけど、そのとおりだと思います。右も左もない、というか同じ事。国家がまるごと「カルト宗教」にのめり込んでしまった状態だと言えなくもない。不都合な事実を全部忘却して、あの時代が好きだという変わった人もいますが(解体された財閥や元不労地主だった、“名家”に連なる一部の人達かな?最近の政治家はこういうのが多いですね。そうでなければ“大帝国”妄想と現実の区別がつかない人でしょう。ドイツのネオナチよりも、英国のフーリガンみたいなもんだな)、私はまっぴらです(強権的国家統制主義に戻りたいとは、開発独裁型の“発展途上国に戻りたい”というのと同じこと。国の発展は何のためかという視点がすっぽり抜け落ちた「目的と手段」が転倒した発想でしょう。まあ、“俺様が指導者”だという方々の“目的”は別にあるのでしょうが)。
***上から目線で常に“自分が国民を監視・監督する”立場にいるかの如き発言を繰り返している人を見るとホントのバカかと思う。“裸の王様”が“お山の大将”やってる感じ。過去から現在、将来に至るまで、各方面から見張られてるのは、オタクの方。何しろ目立つし、本人だけが気づいてないようだが、“社会秩序を乱している張本人”だから。もっとも本人は“注目を浴びている”つもりなんでしょうね。お祭り会場をうろつく“やんき~”と同じ (-_-;)ですな 。「行き過ぎた個人主義・自由主義を是正する」ですか?今現在日本以上に、秩序もマナーも守られた国がどこにあるのか? 是正が必要なのはアナクロの傲慢連中の方でしょう。最近は、昔の「左翼進歩的文化人」を裏返した「右翼復古的文化人」がお元気。こういう状況だから、宮崎監督も政治的発言が増えるのでしょうね***
こういうことですから、たとえ対外戦争しなくても(スペイン)、あるいは軍隊がからっきし弱くても(イタリア)、全体主義は起こりうるので注意が必要です(ヒトラーやムッソリーニ、スターリンの支配も“シビリアン・コントロール”には違いないですしね)。
こういった社会背景が、物語に緊張感を与えています。
また、飛行機についてですが、当時は布張り複葉機から全金属製単葉機に移り変わる頃で、その技術の進歩の速さは、現代のコンピューター技術なみで、飛行機開発競争は凄まじく、さぞ、当時の若者は大空に憧れたんではないかと想像します。
*懐かしの映画「素晴らしきヒコーキ野郎」(石原裕次郎が出てる!)の時代が1910年。零戦が制式化(装備品として正式採用)されるのが30年後の1940年(皇紀だと2600年なので海軍では零式といいます。陸軍では一〇〇式。97式は皇紀で2597年制式化ということ。なお、現在の自衛隊は西暦を使用)です。
※THOSE MAGNIFICENT MEN IN THEIR FLYING MACHINES (1965)Trailer
*こちらの「華麗なるヒコーキ野郎」は第一次世界大戦(1914~1918)後の1920年が舞台。
※The Great Waldo Pepper(1975) Trailer
そして、当時の若者世代(若年層)の多くが罹患し、恐れていた病、それが作中の菜穂子さんが患った「結核」で、戦後に特効薬ができるまではほぼ不治の病でした(この映画にも出てきたトーマス・マンの「魔の山」とか、関連する文学作品も多いです。しかも、サナトリウム=療養所に入れた方はまだ恵まれた患者だったのです。経済と社会が安定し、国民皆保険が実現している現代日本を基準に想像してはなりません)。
帝国主義全盛の当時、戦争と並んで若者の身近にあった死の恐怖を感じるものの一つだったようで、江戸時代は労咳(ろうがい)といい、明治時代は「国民病」とまでいわれていました。
さらに、日本ではこれに大地震など自然災害の猛威も加わるので大変です。本作では「関東大震災」の描写がありますが、地震の揺れや大火災、逃げ惑う避難民の様子は生々しい感じでした。
もちろん、田園地帯や軽井沢の様子、空、海、飛行シーン、雲の動き、水の流れなど、色使いからして美しいので、スチルにしても見応えがあるんじゃないかと思います。また、戦前日本社会の生活風景(一銭蒸気とか、たばこの銘柄とか、当時流行の横文字言葉とか)や街並みも見どころです。
庵野秀明監督の二郎さんの声も悪くなかったですよ。会社の同僚たちも個性派揃いで愉快です。
それと一直線な恋愛と夫婦愛の話も。独りモンの私にはよく分からないんだが (^_^;)、人間愛なら分かるかな。それに、戦闘機パイロットをはじめ、戦争や災害で亡くなった人々のことも忘れずに描かれていて(この辺りは「紅の豚」と共通するところ)、(私の場合)感動というのではないが、余韻の残る作品です。
往年の名画「会議は踊る」(1931年のドイツ映画)の劇中歌”ただ一度だけ Das gibts nur einmal”や、テーマ曲の荒井由実さんの「ひこうき雲」も効果的で、相当幅広い世代から支持を受ける映画かもしれません。一部の、常に日本(軍)が完全無欠の“架空戦記”の世界に浸ってしまっている人たちはどうか知りませんが。
※荒井由実 - ひこうき雲 MUSIC CLIP(松任谷由実40周年 オフィシャルYouTubeチャンネルへ)
(ちょっと「夢」のシーンが多いような気がしなくもない。それと、「人力」の「効果音」は印象的。アヴァンギャルドですね!ついでにいえば、戦前・戦中の「国産品」が今とはだいぶ違うのもよく分かるし、工場から飛行場に飛行機を運ぶのに当時は牛車を使ってたし、防弾装甲の無い日本の軍用機は”ワン・ショット・ライター”だったし、そもそも大出力のエンジンがなかなか作れなかったし…日本の工業製品の品質が安定的に良くなったのは、戦後、軍用技術が民間に開放され、アメリカからも技術が入ってきて、さらにデミング博士が品質管理の方法を伝えてからです。最近はあえて忘却する“評論家”が多いみたいですが。また、「紅の豚」同様、秘密警察=特高警察がチョロチョロしてます。あまり指摘する人がいないが、ポルコも本作の堀越さんも秘密警察に狙われているのです)
それで、いつも宮崎作品で感じるのは、登場人物が活き活きとして力強く(目ヂカラも強くて)、まるで黒澤明監督の映画を見てるみたい。ヒットの法則の一つかな?
コンビニでたまたま見つけましたが、報知新聞が「ジブリ特別号」(300円)をだしてました。これはなかなか中身が濃い。値段を考えればお得に感じました。
→ *スポーツ報知「スタジオジブリ特別号」本日より発売!(スタジオジブリのHP 2013.8/2)
※Webで見ていると、7月には「円谷プロ50周年特別号」(300円)も出してた。別に報知新聞社に義理はないが、こちらも充実した内容だったので、ついでにご紹介。
→ *ファン必見!ヒーロー対談&ウルトラマンタロウ・東 光太郎(篠田三郎)登場!スポーツ報知「円谷プロ50周年特別号」本日7月10日(水)から発売!(円谷ステーションのHP 2013.7/10)
※「風だちぬ」の原型の話がここに…“ハドソン夫人”の亡き夫・ジムは優秀な飛行機設計技師だったとか。
※直接関係ないけど、航空黎明期の苦労話の名作・「夜間飛行」。サン・テグジュペリは「星の王子さま」の作者でパイロット。
第二次大戦中、偵察飛行中に行方不明に。
※↓この「二十四の瞳」の表紙イラストはジブリのアニメーター近藤勝也氏 によるものだそうです。
ちなみに、飛行機を初飛行させたアメリカのライト兄弟と同じ頃、日本にも二宮忠八という飛行機の世界初飛行を夢見ていた青年がいました。ご参考まで。
*以下にも参加しています。
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