アニメ「かぐや姫の物語」レビュー
12月1日は映画の日です。というわけでジブリ作品の「かぐや姫の物語」を見てきました。
(高畑勲監督作品 製作・スタジオジブリ 配給・東宝 137分 2013年)
いくら裕福でも、自分の人生を自分で決められなかったり、喜怒哀楽のない生活というのは、つらいですね。
作品全体としては、かぐや姫の心の動きを表現するところが現代的。
子供時代に里山で幼なじみたちとのびのび遊んだり(この辺は「まんが日本昔ばなし」の雰囲気)、都のきらびやかな風景や満開の桜に見入ったり、お屋敷で最初はしゃぎ回ったり、後には「お歯黒」を嫌がったり、「カゴの鳥」を見つめたり、言い寄る男どものウソを見抜いたり(色男の公達の口車に乗せられたりしていたら、平安版「レ・ミゼラブル」になってしまったかも)、「私は見世物じゃない」とばかりに怒ったり、十二単(?)を脱ぎ捨てながら屋敷を飛び出したり(ちなみに「正装(上衣)を脱ぎ捨てる」シーンが多いです)、御門に後ろからいきなり抱きつかれて「ひええええ!!!!」的表情をしたり(これは見もの ^_^; )、「自分は何者?」と悩んだり。
本作のかぐや姫は、情が深く、喜怒哀楽も激しくて(ツンデレそのもの)、存分に生きる歓びを表現しています。一方で、周囲の人々はどちらかと言うと浮世ならぬ憂世の苦労を表現している感じですが、観ていると、これが結構、育て親の「翁」(声は昨年亡くなられた地井武男さん。プレスコ=作画前収録のために全編で活躍です)や「媼(おうな)」に感情移入(かぐや姫を心配したり、期待したり、真意をはかりかねたり)してしまうのが不思議な感じでした(見る人の年齢などにもよるのでしょうが)。
また、いわゆる高貴な方々が大概情けないのに対し、庶民の方は力強く描かれています。いかにも近代文芸作品の雰囲気ではあります。
あまり見ていませんが、昨年100歳でなくなった新藤兼人監督の作品の雰囲気かな? 特にかぐや姫の表情の表現などは、新藤監督作品に出演していた(奥さんの)乙羽信子さんのような感じ…かな(「裸の島」とか…)?
(ちなみに、私は晩年の新藤監督が赤坂で朝の散歩をしているのを何度か見かけたことがある)
画風は、高畑監督がインタビューでもよく例に出す、フレデリック・バック監督の作品のように、スケッチ画や水彩画を動かしている感じですが(「ホーホケキョ となりの山田くん」同様、線が“閉じてない”ので、これに彩色して動かすのはやはり大変でしょう)、全体としては透明感のある、明るい色調です。
本作品では、通常の「竹取物語」や「かぐや姫」では、ほとんど語られない、かぐや姫の幼少時代が描かれていて、また、本作独自のキャラクターが登場しますが、これが、なかなか味わい深いです。
赤ちゃんが初めて立ったり歩いたりとかの子どもの成長の喜びと、里山ののどかな暮らしが物語の前半に凝縮されていて、後半の都の窮屈な暮らしと対比されているようです。
人物では、「捨丸」という男の幼なじみが、かぐや姫の「初恋」(?)のお相手として重要な役。 パンフレットによると、本作は高畑・宮崎コンビのアニメ・「アルプスの少女ハイジ」の「竹取物語版」ともいえるそうですが、すると、ハイジ=かぐや姫なら、捨丸=ペーターなのでしょう。
長者になった竹取翁一家が都に上がった後、お屋敷で教育係をする「相模」という女性は、幕末が舞台のNHK大河ドラマ「篤姫」の大奥教育係「幾島」みたいな感じ(なお、「捨丸」はNHK「篤姫」の「尚五郎さん(小松帯刀)」のようでもある)。また、「パタリロ」みたいな顔をした、かぐや姫のお付きの「女童(めのわらわ)」がけっこう曲者で面白い。
それと、最後にかぐや姫をお迎えに来る月の方々。いかにも「天人」な方々ですが、お気楽なお囃子音楽を奏でながら登場する割には、相手に有無を全く言わせないところは、恐ろしくもあります。
なお、翁は「讃岐造(さぬきのみやつこ)」といい(本作ではこれ。似た発音の別名の伝承もある)、うどん県の讃岐(の氏族)と関係があるとかないとか、いろいろ説があるようです。
※「かぐや姫の物語」予告編:The Tale of Princess Kaguya Official Extended Trailer (2013) - Studio Ghibli Film HD(YouTube)
※これはローソンでもらってきたジブリ・グッズのチラシですが…「女童」はコイツです。 (^o^)
*LAWSON「かぐや姫の物語」グッズのネットショプのサイト
※もし、かぐや姫が色好みの公達の口車に乗せられていたら、「ああ無情(レ・ミゼラブル)」の悲劇の始まりです。たぶん。(^_^;)
で、アニメで画風・作風が連想される作品としては、
*フレデリック・バック監督 「木を植えた男」(1987年・アカデミー賞)
*山村浩二監督 「頭山」(世界各地で受賞・2002年アカデミー賞短編アニメ部門でノミネート(日本人初)や「カフカ 田舎医者」
*加藤久仁生監督 「つみきのいえ」(2008年・アカデミー賞)
などがあるかと思いますが、アメリカのアカデミー賞のアニメ部門で受賞してきている作品群と画風・作風が似ている(といっても短編部門の方にですが)ので、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」(2003年・アカデミー長編アニメ賞)に続いて、ジブリ作品でノミネート・受賞もあるかも。
それに、なんとなく、欧州・ロシアの人々からは高い評価を受けそうな気がします。
(かつての実写版の「竹取物語」とは全然趣が違います)
それで、かぐや姫の「罪」についてですが、本作品における解釈は、ご自分で観ていただくとして、私が、昔から想像していたのは(怒られそうな気がするが)、やっぱり、「不倫」とか「道ならぬ恋」だったんじゃないかな~と。
富士山との関係とか、難しい学問的な解釈は横に置いといて、「罪」が、いわゆる「犯罪」や「悪事」でないなら、まあ、身分違いとかの「許されない恋」だったのでは、と想像したりします。かぐや姫さんは、相当ツンデレなようなので。
SF的に解釈すると、月に文明の進んだ人々が住んでいるが、何しろ月のコロニーは人口制限が厳しいので、子作りやそれに繋がる行為も厳しく制限されていて、違反したものは、「野蛮人」の住む地球に期限付きで「追放」と。めでたくお勤めが明けた暁に帰還されたのでしょう。 アニメの「FREEDOM」「戦闘メカザブングル」、映画の「エリジウム」を過去に置き換えたみたいな世界かな? いずれにしろ月の世界は、「生存の不安」はないのでしょうが、自由の全くない超管理社会なのでは。感情が豊かな人や「自分の頭で考える」人には暮らしにくいことでしょう。
昔話風に解釈しても、やっぱり天人の世界は掟や倫理が厳しいので、若気の至りで道ならぬ恋をしたお姫様は穢れた「下界」に島流しと。 …といっても「ロミオとジュリエット」と違って、お相手のことが全然想像つきませんが。
人生いろいろ…です。
※こんなのもある…。
※これは懐かしの’70年代フォークグループの「かぐや姫」
(^^)
*以下にも参加しています。
| 固定リンク
「アニメ・コミック」カテゴリの記事
- 不思議の田舎(くに)の眞人くん…映画「君たちはどう生きるか」観てきました!!(2023.07.16)
- JR稲城長沼駅のガンダム像を見てきました。(2023.06.01)
- コミック「PLUTO」がアニメに。(2023.03.01)
- 映画「すずめの戸締まり」観てきました。(2022.11.17)
- 36年ぶりアニメ化の「うる星やつら」は今月から放送。他にもビッグネームが。(2022.10.02)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 不思議の田舎(くに)の眞人くん…映画「君たちはどう生きるか」観てきました!!(2023.07.16)
- 「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」観てきました!(2023.07.02)
- 12月1日は映画の日。(2022.12.01)
- 映画「すずめの戸締まり」観てきました。(2022.11.17)
- 終戦当時の労苦を偲ぶ夏(2022.08.01)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 一般人も利用可能な公開データ調査ガイド:「記者のためのオープンデータ活用ハンドブック」。(2023.06.19)
- 民法大改正の時代に。「新しい民法がわかる本」。(2023.05.14)
- 終戦当時の労苦を偲ぶ夏(2022.08.01)
- ゴロウニン著「日本幽囚記」発見記。(2022.02.18)
- うろ覚えで人に尋ねる前に「100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集」(2021.12.01)
コメント