新刊紹介 : 「経済思想の巨人たち」
まだ読んでる途中ですが・・・。
経済を市場原理主義で放置しておくと、社会の格差がどんどん拡がっていくのを我々は目の当たりにしているわけですが、本書では、経済を過度に国家統制にすると、国自体が滅んでいく様子が、いろいろな思想家を紹介する中で説明されていて興味深いです。
経済思想の巨人たち (新潮文庫) 630円+税
取り上げられているのは・・・ヘシオドス、管子、プラトン、アリストテレス、ディオゲネス、エピクロス、ゼノン、司馬遷、トマス・アクィナス、トマス・モア、デフォー、マンデヴィル、石田梅岩、ケネー、安藤昌益、ヒューム、アダム・スミス、ベンサム、海保青陵、マルサス、リカード、J・S・ミル、マルクス、福沢諭吉、ゾンバルト、マックス・ウェーバー、シュンペーター、ケインズ、北一輝、石橋湛山、ハイエク、コース、フリードマン、ブキャナン、アロー、ベッカーなどで、いわゆる「経済学者」ばかりでなく、古代から現代まで、国内外の思想家と社会に与えた影響が幅広く紹介されていて、そこが「経済学」ではなく「経済思想」の巨人紹介というわけで、歴史の本を読んでいるようでもあり、読みやすいです。
司馬遷の項目で説明されている、中国の歴代王朝の専売制と治乱興亡の関係の説明などは非常に興味深いです。
(※なお、本書は1997年に新潮選書で刊行されたものの文庫版です)
ソ連が90年代初頭に崩壊した時は、一時、「資本主義が勝った」みたいに触れ回ってた人たちがいて、それが、市場原理主義者の跋扈につながっていったようですが、ソ連の失敗というのは「国家独占資本主義」の「官僚統制」(国民に政府批判を許さない自由のない社会。労働者の休暇は多かったようですが)による「産業計画経済」が国民=消費者のニーズに対応しきれなくなったからで、要するに「自滅」しただけのこと。他方の「西側」では戦後「混合経済」(市場経済と計画経済を適度にミックス)と「福祉国家」で、競争と規制、自由と安定をうまくバランスさせてきたから社会が自壊せずに済んでいるので、「勝ち負け」といえるのか、私は疑問です。
(今の日本は官僚統制と競争放置がまだら模様に混在して、よくわからん状態になりましたな)
また、英国本国が戦後、経済で不振になったのを「福祉政策が行き過ぎて労働者が怠け者になったから」(それをサッチャーが改革したとか)という論調をよく聞きましたが、福祉国家は他にも多いし、英連邦の他の国は順調に経済成長しているのを見ると、これは違うんじゃないかと。むしろ、「戦争に勝ってしまった」ので、アメリカのような大陸国家&大人口の大衆社会でもなく、日本やドイツのように抜本的社会改革もできず、土地貴族や大富豪みたいなのが小さな島国で未だに生き残っていて、富が偏在(=一部で富が抱えこまれている=本人はいいが、社会的には存在しないも同じこと=悪く言えばカネのブラックホール)し、経済の血液たる貨幣の循環が悪いままだからじゃないか(財閥経済だった戦前の日本や今の韓国がそう。それで、「政府は(税金とかなんかで)“富の再分配”をちゃんとやれ」という声が強まる)と思います。
(推理小説でも、殺人犯の動機が概ね、米国だと「自分の事業の邪魔者を消す」で、英国だと「遺産目当て」。この違いは大きい)
サンダーバードを一家で運用できるような大富豪がいくら贅沢したって、社会全体にでてくるカネはしれたもの。年収1億の人1人より、年収500万の人20人を相手に商売したほうが、元のパイが同じでも、経済は活性化・成長するだろう、ということです(現在、多少ほころびが出ていますが、一時は1億総中流と言われ、社会全体が「小金持ち(プチブル?)」になった戦後日本がそうです)。
といっても、英国の場合、いまさら革命になることはないでしょうが、独仏が幅を利かすEUを脱退して(ユーロも使ってないし)、英連邦(インドもある)にアメリカを引き込んでFTAやTPPをやり、「大英語圏経済帝国」を画策したら、英本国経済も大復活、と考えられなくもない。
EUにしろ、「英語圏帝国」にしろ、日本にはマネができない話(協調はできる)。我が国の将来を考えると頭が痛いです。自分の将来の方はもはや胃が痛くなるが・・・。
ちなみに、大陸中国は「共産党」という名称の党が一党独裁していますが、建前ですらもはや共産主義などどこにもなく(この点は旧ソ連の方がずっとまし。また、キューバなど、米国の経済制裁が継続する中、教育・医療は無料の社会を実現している)、権力と腐敗で歪んだ拝金市場経済(?)があるだけ。しかし、言論の自由も人権もろくになく、これを例によって「東洋の文化」だとか「共産党は旧日本軍を追い出したから偉い」とか、屁理屈を捏ねている。だったら「拝金主義」や「汚職」、「対外膨張主義」「歴史復讐主義」も「東洋の文化」なんですかね? むしろ、近代西洋帝国主義の悪癖に近い気がするが。秘密警察があるような強権国家の寿命はだいたい現役3世代(70年前後)くらいが相場。“3代目”ばかりの彼の国。再びの激動の時代は近そうです。
中国は官尊民卑思想の源流たる儒教や科挙の本場(未だに、これに憧れる一部日本人もいるようだ…イヤハヤ -_-; )。「国民全部が公務員」「官僚統治」の「共産党支配体制」は、中国社会の伝統に馴染んでいるのかもしれませんが、歴代王朝が塩などの生活必需品を専売制にして利益を独占→庶民は安いものを求めるので闇取引が横行→社会は混乱し、闇商人や地方軍閥が巨大化→内乱になって王朝が崩壊。この繰り返しが中国の歴史。
…ということが司馬遷の項目で説明されてます。短いけど、この指摘だけでも読む価値があるように思います。
他にも、福沢諭吉(現在1万円札の肖像だ)やケインズの項目なども示唆に富みます。
最近、「国家なくして国民なし」と、民主主義国家の政治家とは思えないお考えの政治家が失言と訂正を繰り返して「話題」になってますが、抽象的な「国家」が実在の人間集団たる国民より先にあるわけ無いでしょう(単語をいろいろ入れ替えると面白いですよね。「党なくして党員なし」とか。党員が誰もいなくなっても、この方の「党」は残るのかしら?それとも「離党者には制裁」でも加えるのか?まるで独裁国家の「党」、でなければ暴力団かカルト宗教のやり方。さすがは“オタク政治屋”)。政治家が自分への投票者よりも先に存在して、選挙民よりも偉いつもりなんですかね? それとも、「国家株式会社」が「国民(税金を払っている方)」を雇っているつもりなのか?何もかも主客が転倒してますな。この方、在籍政党からして間違ってるのでは。まして、国の経済運営を任せるのは絶対無理。慶応大学の学祖・福沢諭吉先生のダメ出し確実です。
*以下にも参加しています。
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