ウクライナ情勢は緊迫の度合いを増しています。
※NHK ウクライナ情勢のサイト
今回のロシアのウクライナ侵攻は、政治的決断も部隊運用のお粗末さも、市民の抵抗運動も、1968年のプラハの春を押しつぶしたソ連軍介入によるチェコ事件とそっくり。ほとんど同じ失敗をなぞるように繰り返しているように見えます。
↓*旧ソ連陸軍の亡命将校が書いた「ソ連軍の素顔」。この中にチェコ事件に従事した旧ソ連軍部隊の内幕が描かれていますが、補給や通信、指揮が大混乱していたこと、兵士がプラハ市民に詰め寄られたことなどが書かれていて、今回のウクライナ侵攻でもそっくりな場面が各地で再現されているようです。
↓*こちらは1976年にMig25で旧ソ連から函館へ亡命飛行してきたベレンコ中尉のお話。旧ソ連空軍の内部事情が色々出てきます。今回のウクライナ戦争ではロシア空軍の活動が極めて低調なことが指摘されていますが、おそらく組織の体質は陸軍同様あまり変わっていないのでしょう。
違う点は、当時世界は東西冷戦中で、チェコ・スロバキアは「東側」の内部にあり、同国軍はほぼ抵抗せず、諸外国の援助もなかったのですが、本年・2022年のウクライナは軍も国民も激しく抵抗している上に、世界中が支援。
その上、現状、ロシアの経済規模がすごく縮小(韓国と同じくらいのGDP。貿易先は単体では中国が1位ながら全体の過半は欧米や日本)していること。これで、こんな大作戦を展開したあげく(戦費が膨大で高額な装備品が大幅に消耗。人的犠牲も大きい)、世界中から厳しい経済制裁をうけて(お金と装備品など物資の補充ができない)、たとえウクライナを制圧して非武装中立の「保護国化」したとしても、経済的メリットはゼロ。コサックの故郷でもあるウクライナ人の抵抗心は抜き難いものとなり、レジスタンス活動も激しく続くでしょう。なにしろ、NATOのポーランドとも隣接しており、ウクライナ支援が途切れることはありませんし(今でも兵器などの補充が絶え間なく続いており、そもそもロシア軍による全土の制圧自体できない可能性もあるでしょう)。
その上、今までのロシアの軍事行動では、国際社会からそれほど強力な経済制裁は発動されませんでしたが、今回はまったくレベルの違う「異次元の経済制裁」。1979年〜80年代のアフガン侵攻のソ連時代と違って、ロシア経済は国内完結しておらず、グローバル経済にしっかり組み込まれているのに、世界から切り離されようとしています。ロシアの国としての信用も地に落ちているし、ロシアの財政と経済は今後相当長期間、きわめて厳しいものにならざるを得ないでしょう。
さらにSNSによって、最前線や攻撃を受けた都市の様子がリアルタイムで世界に発信されています。メディア対応やSNS発信は情報戦の側面が強いのですが、こちらの面でもロシアは「軍事作戦で戦争じゃない」(20世紀の「戦争じゃない事変だ」というのと同じ)という建前だから、自分から情報発信に制約をかけてしまっているが、ウクライナ側は「これは侵略戦争だ」として、政府も民間も多種多様な情報発信を行っており、また、アメリカのイーロン・マスクが人工衛星を使ったネット環境を提供したこともあって、少なくとも国際世論は味方につけています。
結局、プーチン・ロシアは国内メディアだけを統制し、1968年のプラハ侵攻の再現を試みた20世紀型の、ゼレンスキー・ウクライナはSNSをフル活用して国際世論を味方につけた国家存亡をかけた21世紀型の戦争をしているといえるんじゃないかと思います。
当時も今も核の時代なのでおいそれと諸外国軍は参戦したりはしないけれど、ウクライナへの兵器と資金の援助、各国市民の戦争反対の声は膨大なものです。
(参考記事 : “ソビエト型交渉術”… (-_-;)。(2015.2/18)…「FBIアカデミーで教える心理交渉術 -どこでも使える究極の技法-」という本の中に「ソビエト型交渉術」という項目があり、その特徴として、・自分たちと取引する以外ないと思わせる・権限がトップに握られている・コケおどしの感情戦術・相手の譲歩を弱さの弁明とみなす・譲歩する場合でも出しおしみする・期限を無視する、というのがあります。今まさにプーチンは国際社会とこのとおりの交渉をしているように見えます。一言でいえば、マフィアと同じですが)
(NATOを念頭にプーチンは核兵器で世界を脅していますが、逆に言えば、最初からそれ以外の切り札がないのでしょう。ロシアは資源や農産物の輸出大国ですが、価格の問題はあっても諸外国は他の調達先で全く代替できないわけではなく、ロシアは市場としては小さい。軍事技術は高いのに民生技術はさっぱり。また、国民の生活保障も必要だし、国が広すぎるのが仇となりインフラ維持や最低限の国境防衛力などの「固定費」は削れないのに、経済制裁で輸出も決済もできない。宝の持ち腐れとかジリ貧とはこのこと。困窮するロシア経済を前にして得をするのは中国ばかりかも。そのうち、シベリアの土地や資源開発権、シベリア鉄道の運用権などを中国が買い漁る事態となるかも。19~20世紀に中国がロシアはじめ帝国主義列強にされた手法を中国は忘れてないのです。その時ロシア人はどう思うのでしょうね。もっとも、中国の場合、ロシアがNATO対抗のためにウクライナを緩衝地帯国とするために行っているこの侵略を是認するなら、旧ロシア・ソ連への緩衝地帯として満州国を作ったり、中国に進出した昭和の日本軍の行動も免責してもらえるのか?と、日本としてはお聞きしたいところではありますが)
もちろん、今回のロシアのウクライナ侵攻も旧ソ連のアフガン侵攻も、米軍のアフガン侵攻やイラク侵攻、キューバ侵攻も、その他日本やドイツを含む各国の過去の外国へのゴリ押しな軍事侵攻は、少なくとも20世紀以降、10年単位程度の支配期間の長短があるだけで、結局は相手国の国民の抵抗や非協力が続いて、占領政策も傀儡国家の建設も長続きせず、最後は瓦解・失敗するものですが、どういうわけか軍事力で優位にあると「今度は行ける!」と判断してしまう権力者がいるようで困ってしまいます。
当然、テロリスト掃討などの名目を一応掲げて軍事行動を起こすのですが、実際は別の目的もいろいろあって利害関係や各方面の思惑が錯綜する上に無関係な民間人の犠牲を多数出し、時間が経つほど侵攻先の現地の状況は混沌さと悲惨さを増すばかりになります。
国際赤十字ででも各国語で詳細な「軍事侵攻失敗事例集」でもつくって特に軍事大国の政府機関に配布すれば、多少は無謀な軍事的冒険を思いとどまらせる要素となるかも。なにしろ「持続可能だった成功事例集」はないですから。
*以下にも参加しています。
今回のウクライナ戦争では実質的な独裁者が統治する「指示待ち型・秘密主義・セクト主義の官僚主義国家」と大統領や政治家にいろいろ問題があるにせよ「国民が自らの意思で団結した自主自立型国家」の対決という歴史の教科書にそのまま載るような戦いを世界は見ています。プーチンはKGBのスパイ出身ですがスパイも「公務員・お役人」。予算は「要求」、業務は「命令」、反対するものは「粛清(逮捕やクビや追放)」すれば組織が動くと思っている。要するに経済も財政も理解出来ないヒト。
現代ロシア軍については、私もあまり良く知りませんが、近年ロシア陸軍は小回りの効く「大隊戦術団」(大隊規模の諸兵科統合部隊)を多数編成して、地域紛争対応などに最適化されていたそうです。アメリカも対テロ戦争用にコンパクト旅団を作ったりしていたので、世界大戦のない時代の世界的な流れに沿っていたのでしょう。
もっとも、アメリカや冷戦後軍縮ばかりしていた日本は、近年、中国が経済力に任せて大軍拡したので方針転換することになりましたが、ロシアの場合、経済力は縮小した状態のままのうえ(韓国以下のGDP。その内訳も一次産品の輸出がメイン)、今でもGDP比で軍事費が過大で方針転換はしなかったようです。
しかし、今回の電撃戦もどきのウクライナ侵攻は、ソ連の昔ながらの「全縦深同時制圧」(戦線の全正面で大量の装甲部隊が損害を顧みずに突進する)をやりたかったように見えます。いわば、小回りの効く都市部用のパワーショベルを多数集めて、ブルドーザーがやるような作業を軍に命じたのでしょう。ウクライナが抵抗しないことを期待した、最初から破綻した作戦かもしれません。
それに、そもそもロシア軍の特別軍事活動=ウクライナ侵攻作戦の最高司令官は誰なんでしょう?元KGBスパイのプーチン大統領自身なのか? それとも軍務経験が「一切ない」ショイグ国防大臣か?きっと”シビリアン・コントロール”が徹底しているのでしょうな。
しかし、いくら民主主義国ではないといっても、忍者と侍大将と近習とお殿様ではそれぞれ役割が違うもの。まともな軍師もいないようだし。現状は、なぜかお殿様になってしまった元忍者と茶坊主が足軽部隊を敵地に突進させて、うまくいかないので侍大将を督励に活かせたら鉄砲で撃たれて次々と討ち死にしているが如しという状況。
ついでにいうと、ロシア軍の動きと損害は報道でもだいたい分かるが、ウクライナ正規軍の動きがよく見えない。見えないのに善戦している。こちらは情報管理が徹底しているのでしょう。かなり「うまくやっている」と思います。
経済の方も韓国が戦争しなくてもときどき経済危機になりますが、ロシアは同程度の経済力でこの大作戦と大制裁。手持ちの現物リソースが尽きれば、かなり悲惨な未来が待っているのではないでしょうか。
(追記:最初、ロシアのウクライナ「保護国化」要求は旧日本軍の満洲建国に似たような政治状況だと思っていましたが、ウクライナの頑強な抵抗と西側の支援により戦闘が長期化してくると、東西(米ソ)が入れ替わったベトナム戦争的な様相にもなってきました。当時は強大なアメリカ・米軍に対し、ベトナムは東側諸国から支援を受け続け(世界大戦になってしまうのでアメリカはそれを止められない)、国土は荒廃しましたが最終的に米軍を撤退に追い込みました。今回、ウクライナに侵攻したロシアには往時のアメリカどころか旧ソ連の経済力すらない上、経済制裁を受け、使用兵器のレベルには両軍あまり差がないので、いずれにしろロシアの未来は厳しいでしょう。1968年にプラハの春をソ連軍が踏みにじってから約20年で東欧の社会主義政権とソ連は崩壊しましたが、今回はもっと短期で全て変わるのではないかと思います。もちろん、ウクライナにこれ以上被害が出ない段階で、早々に撤退してもらうのが一番ですが)
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